■ 食品機械の変遷
[はじめに]
食品機械は、農林・水産・畜産などの原料を加工し、食料・飲料・調味料等を製造する機械である。
我が国における食品機械の研究開発は、明治初期の製麺機の開発に端を発する。中期には精米機、後期になると製粉機械、乳業機械、餅つき機械、製菓材料である餡の製造機械の研究開発などが開始された。それぞれの分野から生まれた個人商店が発展し、食品機械会社が誕生した。
[食品機械工業会の設立と戦後の業界事情]
食品機械業界の繁栄は、戦後大手製粉会社の復旧に始まり、食料事情が好転するにつれて、製粉機械、製菓・製パン機械、製麺機械などが相次いで再生した。1948(昭和23)年4月20日に「全国食糧機械製造業者懇談会(製造者懇談会)」が発足し、日本の食品機械の復興を図ることとなった。以降、各社は新製品の開発と輸出に取り組み始め、食品業界の生産活動の大型化に伴い食品機械も大型機、システム化が始まった。製造者懇談会は、全国の食料品加工機械製造業の総合団体として、1967(昭和42)年4月に社団法人日本食品機械工業会に改組、2012(平成24)年4月に一般社団法人日本食品機械工業会へ移行し、現在に至る。
[食品機械の省エネ化とメカトロ化]
石油ショック後、機械の省エネルギー対策促進税制が創設されると、食品機械も積極的に省エネ化技術の開発を進め、国が推進する設備投資減税の対象機種となった。また、消費者ニーズの多様化に伴って機械が複雑化し、それに対応するためマイコンと各種機械を組み合わせた自動化・ロボット化への研究開発が進んだ。と同時に、根強い「手作り尊重志向」を満たすべく、手作りと遜色ない食品を製造する技術も開発され、製菓・製パン機械、飲料機械、食肉機械、醸造機械、粉流体処理機械などのメカトロ機種は、国が進めるメカトロ税制(投資減税制度)の対象機種となり食品業界への普及が活発化した。
■ 機種別特徴
[製粉機械]
製粉機械は、明治後半にロール型の製粉機が製造された。昭和初期の食糧増産計画の中で大型の製粉工場が出現し、小麦精選用、製粉用機械を製造する機械会社も出現した。食糧事情緩和後、精白粉製造のための粉砕機械は食品工業のみならず化学工業、飼料工業、医薬品製造、陶磁器工業などの粉砕工程に使用されている。粉砕機械は使用目的により、種々の材料を数メッシュから数ミクロンまで1~20数台の機械を組み合わせて粉砕し製品化する。
[精米麦機械]
明治に杵つき型精米麦機械、研削型精米機が開発され、それらが戦後、大型精米工場用に発展した。大型精米プラントの電子化は目ざましく、原料の搬入から製品の搬出、「糖」の仕分けから収集に至るまで、精米工場の電子化・自動化が進んでいる。本体の精米機部分においても白米の歩留まりを常時自動計測し、精米機の運転条件の最適化をコンピュータで自動制御している。良食味の米が求められている現在、各種測定器を組み込み、食味計、水分計などのデータをフィードバックさせ、最適な精米が自動で行えるようにコントロールが可能になった。
[製菓・製パン機械]
昭和初期には鉄製のパン用電気窯や混合機、戦後にはパンの普及に伴い、高速ミキサー、自動オーブンが次々開発され、製菓・製パン機械は最も電子化が進んだ分野となった。
製造する製品によって多種多様の機械が開発され、生地の撹拌から、成形、焼く、蒸すなどの工程においてマイコン制御の電子化が進み、各企業それぞれ特徴のある機種が開発されている。主な機種として自動包あん機、パン生地の自動製造システム、チョコレート・キャンディー製造装置、クッキー・煎餅などを成形する自動成形加工機、洋・和菓子やパンの生地を作る自動コントロール型ミキサーなどがあり、製菓・製パン機械の生産は、消費者嗜好の向上と、食生活の多様化に対応し安定した発展を遂げている。
[製麺機]
製麺機は、わが国で発明された最初の食品機械で、海外技術の導入が困難でありシステム化の研究が遅れていた分野であった。1958(昭和33)年頃の「即席めん」の登場に伴い、第3のカテゴリーとして独特の蒸し工程、揚げ工程が加わり製麺装置も大型化・システム化が進んだ。さらに1971(昭和46)年には「カップめん」が登場し、製麺業界の「即席めん、カップめん」は国内外に急速に普及し、製粉業界、製麺機械業界、包装、印刷業界と連携した企業グループ化も進み、国際化の進展とともに製麺機の精度・能力がより向上した。
[牛乳加工機・乳製品製造機]
牛乳・乳製品製造機は、1897(明治30)年頃に真空蒸発釜などが国産化された。昭和初期には牛乳の低温殺菌が義務付けられたことにより、牛乳処理工場に殺菌機、瓶詰め機等、牛乳処理プラントを構成する各種機械が製造された。1971(昭和46)年以降牛乳の生産拡大に伴い、連続式高温瞬間殺菌機や連続式真空蒸発釜、連続式アイスクリームフリーザーなど機械の自動化が急速に進み、自動洗浄装置、自動洗びん機、瞬間殺菌装置も登場、大型化、システム化も同時に進んでいる。また、電子化が進んだことにより、牛乳殺菌機では超高温瞬間殺菌機が登場し、従来の方法では不可能であった耐熱生胞子形成菌を死滅させると同時に、乳質を低下させることなく乳蛋白質を消化しやすくすること、および直接無菌充填包装機の開発により長期保存牛乳の製造が可能になった。
[肉類・水産加工機械]
戦後、食糧事情の好転とともに食肉需要が増大し、それに伴って肉類を加工する各種機械の需要と大型化、高能率化が要求されてきた。畜産物の加工は、解体、脱骨、成形、肉挽き、燻煙、煮沸、焼く、蒸すなど多種・多様な工程を経るため、生肉、ハム、ソーセージ、ハンバーグその他の製品別に各種機械が自動化・システム化され、マイコン搭載のメカトロ機種も大型化が進んでいる。
水産加工機械は、明治に魚肉の擂潰機が開発され、水産試験所などを中心に採取機、砕肉機、裏ごし機などが開発・普及された。1950(昭和25)年、水産物統制の撤廃により自由競争に入ると、魚肉ソーセージ時代を迎え、魚類自動処理機、練り製品製造機械などの分野で魚肉採取機、遠心脱水機、肉挽機、撹拌機、成形機などの開発が一段と進み、冷凍すり身の生産性の向上を促し飛躍的な発展を遂げてきている。これらの水産加工機械のメカトロ化、省エネ化の開発推進と加熱殺菌冷却装置の研究・開発により、蒲鉾など水産加工品の多品種化が進められている。